友人の友人は私の友人です
「おっ」
「よお」
ルインとレイヴァンがなんだかんだと良くつるんでいるので、顔を合わせる機会が増え、ディアとガトゥーザはそれなりに良く飲み交わす仲だ。
仲間四人で飲むのもいいが、(だいいちガトゥーザの仲間のうち二人は未成年で飲酒が出来ない)女子供を交えず男同士で呑みたくなるときだってある。
「最近どうだ、なんか変わったことあったか」
「いやあ?特にこれといってねえな…イザヤールが仲間になってからはセツナが浮かれっぱなしだし」
ディアの何とも言えない複雑な表情に、ガトゥーザは無言で自分のお通しの小鉢を寄せてやった。
セツナが明るい、幸せそう。笑顔が増えた。
それはとても喜ばしいことだ。ディアだってユオだって。レイヴァンだって。
けれど今までずっと旅してきた自分たちよりも、笑顔にさせてしまう存在に、どうしても微妙な思いを抱いてしまう。感謝もしているが、ただ素直にその感情だけを持つには、ディア達はセツナと一緒にいすぎた。
「正直、むしゃくしゃするときもあるさ」
「まー、そりゃ生きてりゃあな」
「話でかくなりすぎ」
適当に思えるガトゥーザの相づちは、じつに彼らしいフォローだ。おかげでディアも冗談めかして笑うことが出来る。
「…で、今日はセツナとイザヤールが二人で素材集めに行ってんだよ」
ちょっとしたハネムーン気分が満喫できる、セツナは頬を紅潮させてうきうきしていたし、ユオからもお二人の邪魔なんてしてはいけませんからねっ!と男性陣へときつく言いつけられている。
邪魔なんてしねーよ。あんな幸せそうなセツナに釘を刺す様な真似、出来るわけがない(下手したらザキかザラキーマかギガブレイクの餌食だ)
「で、オレ達二人…三人は酒場でお留守番ってワケだ」
だんだんと気は晴れたのか、明るく言ってのけるが、暇を持てあましているのには変わりない。肩をすくめるディアに、ガトゥーザは自分のお茶をすすりながらふむ、となにやら考え込むように。
「じゃ、メタキン狩りでも行くか」
「行くか!!」
ディアはものすごい食いつきの良さで立ち上がり、拳を固めた。
(ああ…セツナさん…今頃はきっとイザヤールさんと世界中を飛び回っているんでしょうね…きっと輝かんばかりの笑顔で……なんて事でしょう、地獄までご一緒するとあの日あのとき誓ったのに!その美しい眼差しがこんなに、今は遠い…!!」
「レイヴァン声大きい」
「ごめんよルイン君!!」
途中から朗読会になっていた呟きを、ルインにさっくりと注意されてレイヴァンは素直に詫びた。
というか今は絶賛バイト中だ。
レイヴァンとルインは二人揃ってウェイター服姿。ルイーダの酒場でホールの手伝いをしていた。
ちなみにルインはレイヴァンがなんと言ってもウェイトレス姿にはなってくれないが、リッカにお願いされて一度だけスカートをはいて接客したことがある(その日レイヴァンは不在だったので見逃した)
「今は美味な料理と美酒、そしてボクの愛を平等に、かつ華麗に届ける時間。けれどボクの心は、ふと気がつけばセツナさんの元まで飛び立っていってしまうんだ…!」
「じゃあ休憩時間にどうぞ」
ごっそりと、どこから取り出したのかキメラの翼(×99)をレイヴァンに押しつけ、ルインはすたすたとホールに向かう。
リッカの職場である酒場ではルインはひたすらクールだ。仕事を阻むものはすべて排除する勢いである。
「ボクのためにキメラの翼をこんなに用意してくれるなんて…ルイン君はなんて優しいんだ!」
そしてレイヴァンはどこまでもポジティブで強靱だった。
と、やっと終業時間になり、レイヴァンは厨房でコーヒーとカフェオレを煎れるとルインを探した。
相変わらずそつが無く完璧な、美しい今日の接客ぶりと、お互いの健闘をたたえ合おうという暑苦しい目論見があってのことだ。
「あ、ルイン君…」
「レイヴァン。おつかれ」
やはり、仕事が終わったあとのルインは屈託のない微笑みをレイヴァンに向けてくれる。
ぱあっと気持ちが明るくなったのを感じ、レイヴァンは大股にルインに歩み寄る。
「お疲れ様ルイン君!今日のボクはいつにも増して美しく花々を渡り歩くまるでそう、蝶のようではなかったかな!もちろんキミも」
「あ?レイヴァンもいたのか」
ひょい、と死角になっていた影からディアが顔を出す。
口上を遮られ、というか突然にディアの出現にレイヴァンはめずらしく固まってしまった。
「あれ、ディア君?ルイン君と一緒にどうしているんだい」
「どうしても何もな」
「今からメタキン狩りに行くんだよ」
「え、ええっ」
さらっとルインが告げた言葉に、大袈裟とも思えるくらい驚いてしまう。
「き、聞いてないよボクは。そういえばみんなかっちりとした装備で…」
「即席メンバーで」
「魔人斬りし放題だな!」
うきうきと笑顔を交わす赤・斧・レンジャーの共通点を持つ二人。
「え、もしかして二人で行くのかい?」
「ガトゥーザも行くよ」
そう聞かされて意味もなくほっとする。
「じゃ、じゃあこのレイヴァンも着いていくよ!回復役がいないと何かと不便、というかこの美しいボクと遠く離れるなんて、みんな寂しくて泣いてしまうだろうしね!」
「ユオが来るからいらねえ」
「えええええ!!」
斧(バトマス)、斧(レンジャー)、槍(パラディン)、槍(僧侶)である。
なんという無駄のない構成。まさにメタキン狩りパーティーの完成だ。
「で、でもボクだよ!?ボクがいなくてもみんなは平気なのかい?」
「平気」
「むしろ来るな。せっかく気分晴らしても無駄になる」
がっしゅがっしゅ突き刺さる拒否の刃。レイヴァンはさすがにうなだれ、落ち込んでるかと思ったが。
「ふふ。みんな謙虚で照れ屋さんなんだね…これもみんなボクが美しすぎる所為かな」
髪をかき上げてうっとりしている。
ディアはもう相手にする気も失せたのか、慣れたもので、行くぞルインと無視して先に立ち去った。
「レイヴァン」
壁により掛かって「美しい嘆きのポーズ」を思案していたレイヴァンは、ルインに呼ばれてぱっと身体を起こす。
「な、なんだいルイン君!」
「泣かないし平気だけど、いないとちょっと寂しいよ。」
じゃあ、行ってくるね、と手を振って、レイヴァンの返事も待たずにルインも駆けだしていく。
その背中を見送って、レイヴァンは頭の中が花畑になるのを感じる。
(今のボクも、セツナさんと同じような顔をしているのかな)
たとえ一緒にいなくても、ここに戻ってきてくれる。
18歳くらいからお酒が飲めるのかな、と思って書きました。
師匠が帰る頃のルインは16歳くらい。
いつもよりレイヴァンを当社比1.5倍うざくしてみたw
(2010.1.8)