まふゆさんからの頂き物→猫飼い始めました

 


猫のいる生活



「さむい」
 ルインは珍しく、状況の打開につながらない弱音を繰り返しつぶやいていた。
 さむい、さむい。
 ルインは大抵のことには平気な顔でやり過ごすことが出来るが、寒さには少し弱い。
 エルシオンの白銀の世界は美しく彼女の心を躍らせるが、赴くときは、いつも眉間にかすかな皺を寄せる。その程度には寒さに弱い。
 今日は朝から低気圧の影響で気温が低く、みぞれ交じりの雨まで降っていた。
 それが一日続くというのだからたまらない。洞窟内だったらまだましだったかも知れないが、外におつかいに出る用事があってルインの足はいつも以上に早足だった。
 差した傘も意味を成さず、ブーツはびしょ濡れ。頭までしっとりと濡れている。
 ようやく宿までたどり着くと、裏口から入って、湿気を嫌がる動物のように、ぷるぷると頭を振った。
 雨風をしのげただけでずいぶんと心地が楽になる。
「おかえりなさい、ルイン。寒かったでしょう?今あったかいカフェオレを入れるわね」
 出迎えてくれたリッカにタオルをもらって、頭と身体を拭く。
 大事に抱えていたおつかいの品々はおかげでほとんどが無事だった。ルインは満足げに息をつく。
「にゃ」
 暖炉の前で濡れた上着や靴を乾かそうとしていると、白猫レインがちょこちょことルインを見つけて寄ってきた。
 寛大で、なおかつ商魂のセンスがたくましいリッカは、レインが宿屋にいることを許してくれる。さすがに酒場スペースにはまだ出せないが、カウンター付近ならお客さんもかわいがって喜んでくれるんじゃないかしら、と。
 なのでレインはすでに宿屋で働くみんなの愛猫となっている。今日もきっと、いろんな人に撫でてもらったり遊んでもらったりしたのだろう。本当に人懐っこい仔猫だ。
「やっぱりルインが一番好きみたい」
「にゃー」
 それでも帰ってきたルインに真っ先にすり寄り、伸ばされた手に甘えてくる。
「ただいまレイン」
 ルインもやっぱり、慕われると嬉しくなる。抱き上げてやって、喉を撫でるとごろごろとレインも嬉しそうだ。
 レインを抱きしめると、小さなぬくもりが伝わってきた。
 心からほっと息をつける。
「……」
 がたがた、と今も窓を叩く風と雨の激しさを、ルインは室内から見つめて。
 レインを抱きしめた。
 ああ、よかった。レインと出会えてよかった。
 あの時出会えていなかったら、今日のこの雨の日も、レインはひとりで震えていたのかも知れない。
「…よかったね」
「にゃー」
 見つめ合って、言葉を交わす。
 やがてリッカが、カフェオレとミルクの用意が出来たと呼んでくれる。
 ルインはそっと窓から離れる。あたたかな家の中で、ひとりと一匹は今日も一緒だ。


 


 



水入らず




「ルイン君、レイン君、ランチにしないかい?」
「うん、わかった」
 今日は抜けるような青い空でぽかぽか陽気なのに、寂しいくらいに予定がなかったのでレイヴァンに誘われて散歩に出た。
 小さなレインを連れての遠出はまだ早いので、セントシュタインの国立公園にやってきた。緑も多く、人の目も多くなんでも出来そうな広いスペースもある。
 ルインはずっとレインとじゃれて遊んでいた。
 レイヴァンはそれを微笑ましそうに見守りながら、せっせと屋外クッキングにいそしんでいた。
 ある意味でルイン以上に多才で用意周到なレイヴァンは、バスケットに持ち寄った材料でスコーンとサンドイッチと、レインのミルクを準備してしまった。
 ルインのお手製ねこじゃらしで遊び回ったレインは少し興奮気味だ。
 本当はそろそろお昼寝させてあげないといけない。けれどこのままでは寝付けないだろう
「にゃー」
「お腹もすいてるみたいだし、とりあえずミルクをあげよう」
「そうだね。満腹になれば眠れるかも知れない。おいで、レイン君」
 レイヴァンが、手のひらを差しだして呼ぶ。
 レインは時々、妙に人間くさい仕草を見せる。
 今も首を傾げて戸惑い、レイヴァンをじっとまん丸い瞳が見上げている。
「どうしたんだい、レイン君、ごはんだよ?」
 レイン用のミルク瓶を見せて振ってみるが、レインは相変わらず首を傾げて困ったようにルインを見上げてくる。
「にゃあ」
「うん。レインを呼んでるんだよ?」
 ルインとレインは意思疎通が出来るが、確実ではない。
 というのもレインがまだ赤ちゃんなので、猫語すらおぼつかない状態であるからだ。
 ルインが促しても、ふしぎそうに首を傾げ、困り果てるレイヴァンを見上げるだけである。
「えーっと、えっと…れ、レイン?ごはんだよー…」
「にゃあー」
 今度こそレインは応えて、ぴょんっとレイヴァンの方へ駆けていった。
「…自分の名前がレインだって事はわかってるみたいだけど、レイン君って呼ぶと駄目なんだね」
「まだ小さいからね…ボクの信条に反するけれど、レイン君が認識してくれるまでそう呼ぶことにするよ…」
 レインを抱き上げて、レイヴァンはすっかり慣れた仕草でミルクを与えてやる。
 自分とレイヴァンのランチになるサンドイッチ等の準備をしながら、ルインはそれを眺め。
「レイヴァンもお父さんが板に付いてきたね」
 などと感慨深くつぶやいて、彼の動揺を誘ってしまうのだ。


 

 


 



ボクはレイン



 わがはいは、ねこである。なまえはれいん。
 しろいおかーさんとはなされて、いまのあかいおかーさんとであった。
 なまえはるいんくん。
 ???るいんくん、おとーさんがそうよぶからなまえだとおもってたの。
 でもほんとうのなまえはるいん。くんはいらないみたい。
 ぼくのなまえもれいんくんじゃないの。れいん。

 おとーさんはれいばん。きいろい。きいろいっていうかぴかぴかしてる。
 ごはんがじょうず。まいにちおとーさんのごはんでおなかいっぱいになって、おかーさんといっしょにぬくぬくしてねむる。
 しあわせ。

 おかーさんのおともだちのりっか。あお、むらさき?
 やさしい。なでなでしてくれる。
 「やどや」の「ごしゅじん」。
 「やどや」のひとも、「たびびとさん」たちも、みんなぼくをかわいいってなでてくれる。
 えへへ。みんな、すき。
 やさしいのはすき。ときどきぐしゃぐしゃなでられるのはいやだけど、あったかいの、すき。
 でも、おかーさんがいちばんすき。
 おとーさんとはだいたいまいにちいっしょにいられるけど、おかーさんはときどきかえってこない。
 どこいったの、どこいるの?っておとーさんにきくと、
「ルイン君は今頃華麗にミスリル鉱石を集めて資金繰りをしているからね、心配無用だよレイン君!」
 っていう。わかんない。
 おかーさんはみっかたつまえにかえってきてくれて、ただいま、れいんっていって、だきしめてくれるけど、ときどき。
 けがしてるの。
 おかーさん、けがしてるの。けがしてるのよ?って、おとーさんににゃーにゃーいっても、おとーさんもわかってるはずなのにふつうのかおなの。
 またいってしまうの、とめてくれないの。
 ぼくはさみしい。
 ずっとさんにんでいられないのがかなしい。
 


 すこしして、ぼくわかったの。
 おかーさんとおとーさん、つがいじゃないの。
 ぼくしらなかったの。でもれいんのおかーさんでおとーさんなの。
 つがいは、ずっといっしょにいるんだよ?それだったらもっとさんにんでいられるとおもう。




「にゃあ、にゃー?」
 もうすこしおおきくなってから、ふたりはつがわないの?ってぼくがきく。
 そうするとおかーさんは、いつもよりかわいいかおでわらう。
「レインがいるおかげで、前よりレイヴァンと一緒にいられて嬉しいよ」
 ってこたえがかえってくるの。
 あかちゃんのぼくは、まだそのこたえをしらない。




 

 





ちょう よみにくい !!
仔猫にすら心配される発展具合。

(2010.3.12)