冬の話
「…ん?ディアの姿がないな。レイヴァン少し外を見てきてくれ。私は上を見てくる」
「解りましたセツナさん!このレイヴァンにお任せください!」
気温が低く、お肌も心も乾燥してかさかさに乾いてしまいそうな冬の日だった。
室外とはうって変わって暖房の効いた宿の中でくつろいでいたセツナ達は、赤い髪の不在に気がついた。
念のため上着だけを羽織りマフラーを巻いて、レイヴァンは意気揚々とドアを押し、
即座に気持ちが落ち込むのを感じた。
「なんという…ボクの美声をも震わせてしまいそうな寒気だろう」
心持ち逸る気持ちでディアの姿を探す。宿の外周をぐるっと回り、洗濯物を干す庭とは反対側の空き地、茂みの影に赤い髪を見つけた。
「……ルイン君?」
「あれ、レイヴァンだ」
背を向けていたルインは、しゃがみ込んだまま現れた姿に顔を上げる。
ぬくもりのシャプカを被ったレンジャー服姿はあったかそうだ。
「こんなところで何を…ええと、ディア君を見なかったかい?」
「目の前にいるオレへの嫌がらせか…」
「おや、ディア君そんなところに!」
がさごそと、茂みから口元を引きつらせた自分たちの赤い髪が現れた。
小脇にはごっそりと枯れ枝を抱えている。
こちらも毛皮のベストで、さすがにインナーを下に着込んでいる。
と、赤レンジャー二人が揃って何をしているのだろう。レイヴァンは改めて二人を見比べてみた。
ルインはなにやら赤茶色のものを古新聞に包んでいる。
ディアは持ってきた枯れ枝を、交差するように組み立て、風通りを良くしているようで。
「薪かい?そしてルイン君が包んでいるのは、サツマイモかい?」
「うん。焼き芋。宿のみんなも嫌いな人は居ないって言うしさ」
「せっかくだから、太陽の石作と原始の火。どっちがうまいか食べ比べようって話になってよ」
二人は手際よく火をつける準備を進めていく。このあたりは火や煙が流れる心配も無さそうだ。
「このレイヴァンが華麗に手伝おうか!?」
「いい」
「邪魔だから向こう行ってろ。あとセツナには言うんじゃねえぞ。あとで驚かせてーから」
ずばずばっと拒否られる。うう、ルイン君まで。
「でも、セツナさんに探して来るよう言われてきたんだよ」
「適当にごまかしゃいいだろ」
「そうそう。レイヴァンまで遅いと心配かけちゃうから上手によろしくね」
(ボクに嘘をつけと?美しくないね)
少し、面白くないような心境と言うこともあるが。
いちいち二人の言うことは正しいし、セツナを喜ばせたいという提案は素敵なことだ。
「…解ったよ。セツナさんの喜んだ顔は何にも代え難い美しさだからね!」
「うんうん」
「ルイン君、無茶をしてはいけないよ」
そっと、自分が巻いていたマフラーをルインの首に巻いて、レイヴァンは宿の入口まで戻っていった。
ルインが寒がりだと言うことを、聞かなくても知っていた。
「テメェの前だとレイヴァンの野郎がかっこつけやがる」
「そうかな」
ディアが複雑そうに顔をしかめるのに、ルインは首を傾げて同意しかねる意を示す。
そして数十分後。
「レイヴァン!ディアが呼んでるというのはどういう事だ」
「そうですよ、わざわざ寒い外にセツナ様を連れ出すなんて。状況次第ではディアもあなたもザキですよ?」
可愛らしくぷんすか怒るユオは、顔と言動のレベルが一致していない。
きっとザキで寒空の下放置されるんだろうな、と思う。何度か体験済みなので間違いない。
「だ、大丈夫です!このレイヴァンを信じてください」
「無理だな」
「無理ですね」
「ああっ、なんて美しいコーラス!」
きゃいきゃいと寒さを紛らすべく(?)騒ぎながら歩いて、間もなく拓けた空き地にたどり着く。
「ん?このにおいは?」
角を曲がる前には解る。自然の作り出す燃える匂いと、空気。
そして香ばしくも、食欲をそそるような。
「よお。良く来たな」
「寒空のレストランへようこそー!」
赤レンジャー二人がスタンバって笑顔で二人を出迎えた。
ずっと薪に当たっていた状態だろうけど、若干唇が紫色なのがしまらない。
「ディア!ルインもか?これは…?」
「いいから食えよ」
ずいっと、ほこほこ湯気を立てる焼き芋を差し出す。
察しの良いセツナはすぐに状況のほとんどを把握したのだろう。もの言いたげな目で見つつも、枝に直接刺された芋を受け取る。
「いただこう」
はふはふと息を吹きかけながら、ぱくり、と一口。
寒さと、常に気の張っているセツナの表情から、こわばりが一瞬解ける。
「うまいな」
「だろ」
ディアもしてやったり、と笑う。隣のルインとぱん、と手を打ち合わせる。
セツナの喜ぶ顔。これ見たさに頑張ったのだ。
「もう、ルインちゃんまで巻き込んで何やってるのよ、ディア」
「ユオもどうぞ。熱いから気をつけてね」
と、こちらはルインがユオに差し出す。食べやすいよう外の皮が半分まで剥かれているというさすがの気遣いだ。
「あ、ありがとうございます。私がもらってもいいんですか?」
「もちろん!」
笑顔の輪が、ほわほわと広がっていく。
寒い外で食べるから、なおあったかく美味しいのだろうか。
それとも、こうして季節のひとつひとつを、仲間達と、親しい友人と過ごすからこそ。
「レイヴァンも、はいっ」
「ルイン君、ありがとう。お疲れ様だね」
「火の調節はディアがほとんどやってくれたんだよ」
それでもルイン君だって頑張ったよね、レイヴァンはあえてその言葉は口にせず、笑顔で焼き芋品評会をしている仲間を見守る。
「…あ」
ふ、と、白いものが視界に舞い落ちてくる。
見上げれば、次から次へと。白い天使の羽根のような。冷たい破片が増えていく。
「片付けて宿に戻るか。リッカ達には中で食ってもらえばいーしな」
「そうだな、戻ろう」
さすがにこれ以上長居しては身体を冷やす。ディアとルインは簡単に荷物をまとめて、そして全員揃って宿屋へと戻る。
「…雪かあ。さむいね」
吐く息が白い。雪を見上げるルインの横顔を見て、レイヴァンは笑う。
「でも、ボクの心はぽっかぽかだよ」
焼き芋は美味しいし。
隣にキミがいるからね。
飛龍さんに頂いたネタ「ぽっかぽかだよ!」を使いたくてただ書いた。
そして赤レンジャー二人を書きたくてry
ディアが大好きです(どんな告白)
(2010.1.6)