セツナさん



※まだ名前も知らない飲み友達




 ルインが知り合った綺麗でちょっと変、少しだけ見直した魔法使いには、同じ単語が良く出てくる。
 セツナさん。
 セツナさんは美しい。セツナさんは素晴らしい。セツナさんは勇ましい。
 彼の美辞麗句がこんな簡潔になったことは一度もないが、要約するとそういうことだ。
 むしろ特にこれといって話題がないと、文頭語尾にセツナさんが出てくる。
 ひたすらセツナさん。しつこいくらいにセツナさん。セツナさんフルコースだ。
 人の話はきちんと聞きなさいとしつけられているルインは、基本的に黙ってずっと聞いている。セツナさん話になると結局は同じような内容の繰り返しなので、そこまで身を入れてはないが、とにかくちゃんと聞いてはいた。
 適当に相づちなど打ちながら。
「あなたはセツナさんが大好きなんだね」
 ここまで聞かされといて、端から見たら何を今更、と思われるような言葉を振ってみる。
 しみじみと、言ってみる。
 そうすると彼は、もともと出来の良い顔をさらに目映く輝かせ、誇らしげに笑いかけてくる。
「そうなんだ、そうなんだよ!わかってくれるかい、キミならきっと分かり合えると思っていたよ!!」
 何を分かり合えるというのか。
 首を傾げながらも、手を取られてぶんぶん振られるがままになる。
 こんなに嬉しそうにされるなら、いくらでも言えばよかったとも思った。
「どうだいキミも!セツナさんは素敵ですよね同盟にはいるといいよ!きっとキミなら申し分ないセツナさん同志になれるはずさ」
(セツナさん同志って何)
 思いながらも突っ込まない。
 ただ、なんというのか、あんまりにも毎回毎回セツナさん話を聞かされ、セツナさんがどれだけ素晴らしいかを聞いていたので、ルインもセツナさんに好意的な印象を抱いてしまっていた。
(洗脳?洗脳されちゃったのかな)
 いや、おそらくは、好きな相手のことを語る彼の様子が、本当に満ち足りて見えたから。
 その好意にひかれるのだ。ルインはあたたかな感情が大好きだ。
(そうだね、こんなに想われるひとなら、ボクも会えばきっと好きになる)
 彼と一緒にいるところを何度かみかけたこともある。黒髪の美しい、姿勢のまっすぐな人だった。
 残念ながら、まだ顔を合わせて会話をしたこともないのだが。
「ボクも、セツナさんにあってもいいの?」
「もちろんだとも!セツナさんは心も美しい、寛大な女性だからね!」
 そうと決まると楽しみになってきた。
 彼とセツナさんは一緒に酒場を訪れることもあれば、それぞれべつに過ごしていることもある。
 会えるといいな。会えたら、ご挨拶してお話ししてみたい。







 

 

二人がくっついたあともレイヴァンがセツナさんラブなのが私的ポリシーというか、レイヴァンのあるべき姿だと思っています。
(2010.1.10)