アレルギー
ぴりぴりする。ちりちりする。
時にそれは、ずきずきもする。
どんな食べ物も環境も平気な顔でやり過ごせる、ルインの身体に時々それはやってくる。
「いらっしゃいませ、麗しいお客様。今日もボクに逢いに来てくれたんですね?」
レイヴァンは今日もウエイター。どんな客でも(主に女性客だが)笑顔と美辞麗句で褒め立てる彼の接客は賛否両論あれどすっかり馴染んでいる。
レイヴァンの言葉を聞くのは(基本的に)楽しい。
語る言葉は、柔らかで前向きで綺麗な言葉ばかりが並ぶから。
同じようにきこえても、微妙に絶妙に形を変え趣を変え、出てくる出てくる褒め言葉。
嫌がる人もいるけれど、ルインはレイヴァンの言葉が好きだ。だから声も好きになった。
本人のことも。
(うーん…)
まだ自分でもあまり実感がないのだが、ルインはどうやらレイヴァンのことが好きらしい。
普通の好きではなく、とっても好きらしい。何となく理解したら驚いて一日中ぼーっとして過ごしてしまった。
だから、今日はおやすみでカフェオレタイムを過ごしていたルインは、意味もなく働くレイヴァンに意識を向けてしまう。
時々目があってにっこりとされる。ルインも目だけで頷く。レイヴァンの微笑みが心なしか深まる。正直に嬉しいと思う。
(心がくるくる動く。せわしない、落ち着きない)
自分の心境さえも観察対象にすればちょっと面白い状況だけど。うまくコントロールが利かないこともあって困ったこともある。
今もレイヴァンは女性客の容姿を褒め称えている。自分とは違う、大人びた美しい女性。背の高いレイヴァンとも釣り合いそうな。
ルインだって綺麗なひと、と思う。自分が話していても誉めてしまうだろう。
だから何とも思わない。自分でも意外だったが、この光景にルインは妬かない。
女性に優しく振る舞うレイヴァンを見ると、逆にほっとする。
でも時々、端整な顔立ちのレイヴァンにぽーっと見惚れて頬を染める女性もいる。少なくなく、いる。
それは、少し。
(ぴりぴり)
何だか、全身をかきむしりたくなるような気持ち悪さが駆けめぐる。
ルインが、困っていたらすぐ助けてあげたいような、優しい顔立ちの娘さんだ。すこし色黒の頬を、はっきりとわかるほど朱に染めて。レイヴァンの一挙一動に見入っている。
(ぴりぴり。痛い)
全身が、女性に反感を覚えることに対して拒否反応をしている。
でもルインはそれに耐える。それも今までになかったあたらしい自分。
あんまり、レイヴァンはもちろん他の人に知られたくない自分の一面だと思う。
カナヅチであるとか、体質的な弱点はしょうがないが、心の弱いところを知られるのは苦手だ。
あんまり格好よろしくない。
レイヴァン風に言えば、美しくない。
「……」
自分が、レイヴァンに望まれないような変化を遂げることよりももっと、嫌われたらいやだなと思っていることが何だか不思議だ。
レイヴァンを、すきでいることは、やめたくないのかな。
恥ずかしいよりも辿り着いた答えに驚く。
ルインは、レイヴァンのことがすきらしい。
しかも普通の好きではなく、とっても。
書いてる人が全身かきむしったw
(2010.1.11)