「…ん?」
 ディアを探していたレイヴァンは、ふと角を曲がる際に足を止めた。
 聞き覚えのある声がふたつ。そっとのぞき込んでみると、ディアとルインの二人が楽しそうに話している姿が見えた。
(二人は仲が良いのだね…)
 仲良きことは美しきかな。
 レイヴァンは微笑ましく、しかしなにやら心中に滞りがあることにすこしだけ居心地の悪い気持ちになった。
(何を話しているのだろう?)
 立ち聞きなんて。まるで美しくない!と白いレイヴァンが頭の上で嘆いている。その横で、しかし二人が仲良く話しているところを割って入る真似も美しくない。ここは話題を察してからそのあと進退を決めようじゃないかと黒いレイヴァンが囁く。
「…にゃあー」
 声が聞こえてきた。と思ったら、ルインが「鳴いた」。
「!???」
「がう。がうがうがう、がうがう?」
「にゃ。にゃにゃにゃにゃ。なーう」
 ディアも真顔で、がうがうと唸るように声を発している。べつに怒っているわけではないようだが。
 そしてひたすら、ルインはにゃーにゃーと。
「……こ、これは…」
 レイヴァンにはまるで理解が出来ない。しかし会話は成立し、意志はなんの問題もなく疎通できているらしい、これは。
「…レンジャー語…!?」









レンジャー語が個性豊かだったら可愛い。
とりあえず私のイメージでレイヴァンは変なジェラシーは抱かないので、普通に立ち去るか、無意識に軽く入っていくかの二択です。
(2010.2.8)

 

 


 


愛のお裾分け

一刀両断さんの「それぞれのバレンタイン」に早速便乗しました(無断ごめんなさい)

 






「おなかすいた」
 ふらふらと宿の厨房にやってきたルインを、レイヴァンとディアとまだまだ大量に積み上がったケーキらしきもの、が出迎えた。
「ごきげんよう、ルイン君」
「…おう」
「やあ、こんにちは。レイヴァン、ディア。おやつタイム?」
 レイヴァンはにっこりと微笑んで、周りの黒い塊を一通り見渡すと。
「愛情の欠片だよ」
「ふむふむ。なるほど今日はバレンタインだね」
 ルインはそれで一瞬で大体のところに察しをつけると、自分の分のカップを引っ張り出し、ディアとレイヴァンの間の席にちゃっかりと着く。
「ルイン君?」
「レイヴァン、ボクお腹ぺっこぺこなんだ」
 両手にフォークとナイフを構え、ルインはレイヴァンをまっすぐ見据えた。
「食べても良いかな」
「無理すんな」
 ディアが低く這うような声で忠告を入れてくれる。何かだいぶんいろいろと無理をしたらしい。
「そうだね。ルイン君はあまり甘いものが好きではないんじゃないかい?」
 や、そんな問題じゃなくだな。若干ずれているレイヴァンの気遣いに、ディアは突っ込みたいがそんな気力もなかった。
 ルインはにこりと笑う。それはどこか不敵とも取れる笑み。
「ボク、人の想いって大好物なんだよ」
 言うなり、あっ、とかうお、とか、発される声に構わずルインはケーキにフォークを突き刺し、大きく口を開けてぱくり。
 ぱくり。ぱくり。ぱくぱくもぐもぐもぐもぐごくん。
「ル、ルイン君…」
「マジか…ワンホール一気にいきやがった…」
「うん。セツナさんの、一生懸命の味がする」
 ルインは顔色ひとつ変えずに、口の端をチョコで汚しながらにこにこと告げる。
 レイヴァンはそれを見ると、曇らせていた表情をぱあっと晴らす。美形の本領発揮、輝かんばかりの笑顔。
「そうだよね!セツナさんの純粋な想いは本当に美しく、かけがえ無い愛に溢れているよね!」
「うんうん」
「ルイン…それほんとにうまいと思って食ってんのか…?」
 今も速攻で2ホール目に突入しているルインに、ディアは驚きを隠せず問う。
 ルインは一度口を動かすのをやめると、いつもの真顔で答えた。
「苦甘くて辛くて硬いし半生だし歯触りざらざらだし後味がしつこいよね」
「……ちょ、おま…」
「でもおいしい」
 真顔で言う。嘘をついているようには、見えない眼差し。
 レイヴァンはルインの感想をもっと美しい表現で飾り立てるが、要するに完成度が高くないことには変わりがないわけで。
 愛は味覚を超越する。
 ディアは理解できない、とぼやきつつ、また一口、切り分けた一片をそれでも口に運ぶのだ。










男性二人が男前すぎて惚れるwセツナさん大好き!
レイルイのバレンタインはこうして始まる。
(2010.2.8)