創世記
創世に置いて、星の彼方より無数の雫が降ってきた。
はじめのひとつが海になり、次の幾つかが大地になり、最後のひとつが命になった。
大地にあったはじめの命はひとつの芽である。
やがて芽は、自分の他にも石や種、命の欠片が存在することに気がついた。
芽はそれらに近づきたく思い、触れたく思った。
手を伸ばしたが、限られた距離では到底届かなかった。
芽は、大地に根ざす自らの足に気づいた。
そうして歩くことを知り、肉体を意識した。
これがすべての動物の始祖である。
時は移ろい、進化を重ね種は無数に枝分かれ、繁栄を遂げた彼らはやがて、新たなる土地を目指した。
もっと過ごしやすく、命をはぐくみやすい土地。
険しい山脈を越えた後に、彼らは理想の大地を見つけた。
どこまでも続く大地。美しい緑に溢れるそこはまるで楽園だった。
人々はどんどん移り住んだが、やがて、はじめに移り住んだもの達はこう思うようになった。
いま、古き大地にいるもの達にまで、この大地を明け渡すのは勿体ない。自分たちで独り占めしてしまおう。
そうして、境目である山の麓に壁をもうけ、無理に通ろうとする者をすべて殺していった。
当然激怒した古き地のもの達は、新しき地に移り住んだもの達へこう宣告した。
今だけいい気になっているがいい。
我らはこの古き地にあっても、貴様らへの報復を誓おうぞ。
そうして数百年の後に、その言葉は現実のものとなった。
古きもの達は、古き地にて、新たなる「力」を手にしたのだ。
負の願いによって作用する力、呪と呼ばれるもの。
それによって、新しき地のもの達は地獄を見た。
多くのものが死に絶え、目に映るのは死体の山ばかりという惨劇が十余年は続いた。
しかしして呪のちからも絶対ではなく、古き地のもの達も少なからず被害をこうむっており、諍いは一度終結を見た。
けれど、大地に根付いた怨恨と、確執は長き時を持ってしても拭えず、新しきと古きの争いに嫌気の差したもの達は、さらなる新たな地を目指して旅立った。
その数は年々と増えていき、ついには歴史上最大の国家が出来ていた。
なおも彼らは昔年の恐怖を忘れてはおらず、自らの魂に戒めを刻むことにした。
これが、現フェイ国の興りである。
最古の民の血を引く、古きもの達は、呪の力に魅せられたままだった。
そして南下し発展した、すべての子孫に報復するという、血に刻まれた怨恨が、黒く根強く残された。
これが、現クォと呼ばれる軍事大陸の興りである。
そして新しき者でありながら退くという言葉を知らなかった少数のもの達は、自らで国を興した。
誰の干渉も受けず、すべてを実力で動かしていく、激しく、閉鎖的な国家。
これが、現ウォッツと呼ばれる小さな中立国の、変わらぬ現状である。
―――――そしていまに至る。
(2005.1.29)