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 子どもというのは大概にして、手足が細く華奢で、男女の区別も付かないような子も少なくない。
「右から…ロロ、キキ、リリ」
 薄暗い石造りの一室で並ばされて、記号を読み上げるように呼ばれる。
「てめえはザザ。てめえは…ネネだ」
 そう、最初は確かそんな響きだった。いつしか今のようになっていた。どうしてそうなっていたのか正直記憶にない。
 自分のすぐあとに呼ばれた隣の子どもを見た。目線がすこし上にある、肌の白い、整った顔立ちの子。
 その表情はひどく不機嫌そうに歪んでいる。今ではその理由がわかる。女の名で呼ばれたからだろう。













 

 
















 夜だった。覚えている。
 彼と走っていた。覚えている。その理由も。
 逃げだそうとしたのだ。不当な拘束とこれから課されるであろう屈辱から。
 月光に照らし出されて鏡面のように湖が輝きを放っていた。異様とも言える光景で、幼い自分は恐怖を覚えたと思う。
 彼の背しか見えなかった。月のように白く映える、本来なら灰色の頭。
 俺は傷だらけで地に伏せている。覚えていない。
 思い出せない、傷を負ったその理由は。

「―――こいつはかんけいない」

 彼が言う。ひどく追いつめられた、動揺のかくしきれない声。


「ふざけんな、てめえがいうのはおれだけだろう!こいつなんかどうだっていいだろ!?」


 ずきり、と胸が疼いた。
 彼に拒否されたようで、当時の俺は悲しかった。


「っの、クソ女!クソ女!てめえおぼえてろ!」


 口汚く彼が罵る。
 どうやら彼は、「クソ女」と何か契約めいたものを交わしたらしい。
 俺にはけして声の聞こえない女との。



 ―――――バケモノがうまれたのはその夜のことだった。
 さすがに俺にもそれだけはわかる。




 

 

 

 

 

 

◇