02 遠い日の夢
とりあえずこの状況では途方に暮れるしかない。
紅はようやく抵抗をやめ、自分の負けを認めざるを得なかった。
というより以前に道はどこだろう。
自分の足元を何度見下ろしてみても、後にも先にも茂る下草と逞しくこけむした木の根ばかりが目にはいる。
見渡す限りの樹。樹。樹。時々岩石。見知らぬ動物。野草、草花。
首が痛くなるくらい空を仰いですら元気良く育ちすぎた緑。懐かしい蒼と白雲すら遠い。
おかしい、明らかにあり得ない。
自分は確か道の上を歩いていたはずなのに。
「……」
ここはどこだ。森というより密林の様相。
とにもかくも見覚えのない、勝手の分からない場所だ。懸命にも、そう認識した時点で紅は歩む足を完全に止めた。
そうした方が懸命なのだ。だって。
紅は、見知らぬ土地では必ず迷うのだ。
性分ではない。魂に刻まれた、生まれながらの呪い。
しかたなく、原因を解明すべく記憶を反芻することにする。
久々の帰郷だった。
妹と庭の世話をして、父と手合わせをして、母と散歩して、祖母にはパイを焼いた。
五日間の休暇を満喫して――あと4人いる上の兄姉とは誰とも帰郷がはち合わず会えなかったけど――懐かしの、やはり落ち着く我が家だった。
そしてたくさんのおみやげとお弁当を持たされて、就職先の街へと今朝出発したのだ。
舗装された道なりに歩けば一日とかからずに着ける、安全な距離だった。
普段通りに進むだけで、いくら紅でも迷うはずはない。
しかし、そうだ。その日に限って、先日の落雷で倒れた木の撤去作業をしていた。
作業着とメットのおじさんが、申し訳なさそうに
「ごめんねえ。ナナキに行くんだよね?こっちの道は見ての通り、通れないんだよ。でもほら、あっちの道をね、まっすぐ行った先の三叉路を左に曲がれば同じ道に出られるから。ちょっと回り道になるだろうけど、大丈夫。夜までにはナナキに着ける距離だよ」
説明してくれた。
紅は礼を言って、道なりなら安全だと迂回ルートを進んだのだ。
そもそもはそれが間違いだった。
作業していた人は数人いたし、自分の呪いのことを説明して誰かに着いてきて貰うべきだったのだ。
結果、どこをどうやったらたどり着けるのか、道など無いようなこんな密林に佇んでしまっていた。
「……」
しかし、初対面の人に案内を頼むなんて、自分に出来たかどうかも怪しかった。
人に頼るのは昔から苦手だ。負けん気な性格も災いして。
それで、途方に暮れるしかないのだ。
幼い頃のように、じっと待っていていつも来てくれたすぐ上の兄が現れるわけもないし。
ここから脱出しようにも確実に迷うことは分かり切っているから迂闊に動けない。
ある意味、ささやかだと思っていた自分の呪いは命に関わるのじゃないだろうかと思う。
さてどうするべきかと立ちつくしたまま、少しずつぼやけていく視界に気がついた。
当たりが暗くなっているのだ。
朝からずっと歩いていたが、太陽の位置も知れずいまが何時かも分かるはずもなく。
森の夜は冷えるだろうか。都合良く木の根の間や洞窟などが見つかって寝床が確保出来るだろうかと現実的に、いま直面している事態を考えながら、やはり紅は一歩も動けないでいた。
血に刻まれた呪いは絶対だ。
生まれたときから根付き、発現が比較的早かった紅にとって軽く見ることが出来ない。
何度も何度も迷うたびに途方に暮れて、そしていつしか立ち止まって身動きしない癖が付いた。
そうしていれば、自分を捜す家族の声が聞こえてくる。
最近では、仕事の同僚、心得た友人が。
しかし。
この、果たして明らかに人の通らない場所に、紅がいるなどと誰が思うだろうか。
きっといつも通り待っていたところで、何も通りはしないのだ。
このまま立ちつくしたまま何か変化が起こるのを待つか、さらに迷うのを解りきった上で前に進んでみるかという、二つにひとつの選択ならば。
紅は迷わず、後者を選ぶ。
たん。
「……」
一歩踏み出してみて、ふと口元に薄い笑みが広がる。
何だ、簡単なことだ。自ら動くことがこんなに心強い。
ただ、どうしようもないところに行って、戻れなくなったらと思う心がわずかに紅をひるませたのだ。
この先に何が待ち受けていても、後悔はしない。自らが動いた結果なのだとしたら。
ただ、自分の居場所を失うことになったら、嫌だと思っただけだった。
しばらくは進めそうな方向にひたすら進んだが、一向に景色が変わる様子はなく、時間ばかりが過ぎていく。
本当に、このままでは野宿を余儀なくされるだろう。
遭難が続けばいずれは衰弱して餓死するだけだが、それは今は考えないことにする。
幸いにも今は秋の深い季節で、森からは恵みを期待出来るだろう。
それにしても。
今日はもう探索は諦めた方が良いのかも知れない。
目は悪くはないが、特に夜目が利く方でもない。足元が確かでないこの不慣れな場所で、夜歩きは危険だろう。
せめて晴天で良かったと思うべきなのか。
ふと目前にあった太い木の幹に手を置いて、額も預ける。
ふうと深く短い息を吐いて、ずいぶんくたびれていることに気がついた。
それはそうだ。いつもなら日のあるうちに、目的地のナナキに辿り着いているはずが、とっぷりと日の暮れる時間まで歩き続けていたのだから。
帰りが遅いと、隣の家人は心配しているだろうか。
翌朝、仕事先のパン屋の店長はどう思うだろうか。
「……」
もう一度、息を吐いて、幹に背を預け座り込もうと、振り向いて。
ぎくりと、全身が強張った。
幼少時から護身用にと武術をしていた。そのならいか、気配には聡い。
特にこんな、物音のしない場所で隠しもしない殺気はいっそ異質で、紅の意識を奮い立たせる。
「……!」
自然と呼吸が浅くなる。幹を背に着けたまま、身動きが出来ない。
目の前に、一頭の獣がいた。
見たこともないような、金の毛並みと茶斑の巨躯。しなやかな四肢と長い尾。
それは美しいと賛嘆するに値する姿をしていたが、金色の双眸に点す敵意が、真っ直ぐ紅へ向いている。
ここ一帯は、この獣のなわばりだったのだろうか。
だとしても紅にそれを知るすべはなかっただろうし、すでにどうしようもない状況は変えようがなかった。
目を逸らせば一瞬にして飛びかかられるだろう。
真っ直ぐ、一人と一匹は緊迫した空気の中見つめ合い、対峙していた。
それもずいぶん長い時間だった気もするし、たった一瞬だったようにも思う。
引きつけて一撃目を避け、隙をついて仕留める!
紅がビジョンを定めて覚悟を決めると、獣もそれを察したのか身を沈め、飛びかかる予備動作を見せた。
思った通り、獣の跳躍力は素晴らしく一度に紅の頭上に飛びかかってきた。
難なく、ギリギリで交わす。
幹に激突するところを、すんでの所で身をひねって着地した獣の、その隙を狙って足を振り上げる――――。
「……っ!?」
しかし足が何か硬いものに引っかかり、まともに体勢を崩した。
森の夜で視界が悪く、足元の木の根へ意識が向かなかったのだ。
倒れ込むところを何とか受け身は取ったが、これでは獣が体勢を立て直し飛びかかってくる方が早い。
「ガアッ!」
「…!」
ふたたび立ち向かおうと急いで体を起こす紅より先に、誰かの腕が後ろから飛び出してきた。
「!?」
「やめな、この子は女の子だ」
獣に言ってもまるで通じる筈もない、見当外れな台詞と共に、紅の顔横で腕はなにやら動きを見せた。
ヒュンと、軽くひらめくような動作で、たったそれだけで目の前の獣は吹き飛ぶ。
「ギャン!」
びたんとまともに地面にたたきつけられ、低くうなり威嚇していたが、突然何かに呼ばれたかのように身を翻して去っていく。
「しつけがなってない」
紅は、反射的に振り向いて、背後の何者かから距離を取った。
「あれ?」
声の調子からそうだろうとは思っていたが、若い男がそこに立っていた。
暗いため良く分からないが、重力に逆らわない真っ直ぐの黒髪を無造作に伸ばしている。
おそらくそれなりに整っている顔立ちだとは分かった。しかもまだ十代かも知れない。
さらにその顔は紅よりもずっと高いところにあった。ひょろひょろと背が高い。
肩のところで結ぶ、長いマント?を着ているので、どういった職種の人間かの予測も付かない。先ほど獣を地に伏せさせたそれらしい獲物も見あたらない。
男の長身を一瞥して、警戒を解かずにじりじりと紅は後じさっていく。
緊張している少女に対して実は少年と呼ぶほどの歳かも知れない男は、あっけらかんとした様子でさらに口を開いた。
「見ない顔だね。俺、君と待ち合わせしてないしねえ」
「!??」
何を言い出すのかこの男は。
紅の表情で、深まる警戒を感じないはずはないのに、男はひょいと手を伸ばして距離を詰めた。
「!!」
「わあ、すごい。目が青いんだ」
そう言って、紅の頬に手を添えると顔を寄せて覗きこんできたのだ。
わけが分からず動揺していた紅も、この事態には頭に血を上らせ、叫んでいた。
「さわらないで!」
容赦無しに触れる手を払い落とす。
男は動じた様子もなく、それどころかふうんと呟きにっこりと微笑んだ。
「君はしつけがなってる」
「何なの、あなたは!」
とにかく今日一日疲弊していた心身に、この男はいちいち神経を逆なでしてくる。
何なのだ、いったい。何がしたいのかさっぱり分からない。
「俺にしてみれば君だって何?って感じだけれど。どうしてこんな所にいるんだ」
どこかつくりものめいた笑みと、柔らかい語尾の男はそう言って首を傾げた。
「こんな所…って、ここはどこなの?」
そんなの、紅自身が知りたいのだ。本来ならこんな男に現在位置だって尋ねたくはないのだが、背に腹は代えられなかった。
「ああ、そっか!君ってば迷子なんだね!あれでもこんな所まで迷子?あり得ない方向感覚してるね」
「うううううるさいわねっ!そういう呪いなんだからしょうがないでしょう!?あなたには関係ないわ!!」
ノンブレスで図星を突かれて真っ赤になる顔面を自覚する。
初対面で得体の知れない男に指摘されて自分の醜態をさらしているのが惨めでならない。
別にそれで男が面白がってる様子はないのだが、涼しい顔されているのもそれはそれで腹が立つ。
「呪い…?ああそっか呪いね!じゃあ君、フェイの人だ?」
ぽんと手を打って男が言うので、紅の思考回路がほんの一瞬硬直した。
「…あなたはどこの人なのよ」
「俺はウォッツの人」
「………」
即答されて、きっちり一秒、間をおく。
「ここはどこ?」
もう一度、張りつめた視線で男を見上げて訊くと、今度はすぐに答えが返ってきた。
「ウォッツの南西。レヴンの大密林」
「途中でさあ、黄色の国境線見なかった?」
見ていない。フェイだかウォッツだか知らないが国交機関管理が思っていた以上に杜撰だ。
さすがの紅も今度こそ本当に意味で途方に暮れる。
どんなに迷ったときも、フェイの広大な大陸を抜けてしまうことは今までになかった。
「で、君は一人で知らない道を歩くと迷うだけ迷っちまう呪い、と」
「……」
うんともすんとも言えない。
この暗い森のなかで、誰もいない静かな中で、会話する相手がこの男しかいない現状が、妙に現実感が無く滑稽だ。
「一人で帰れる?」
「帰れるわけないでしょうっ!?今あなた自分で言ったじゃない!記憶力無いの!?」
思わず反動で大きく返して、はあっ、と深い息を吐いて前髪を掻き上げる。
「んー、まあ俺でも時々迷うくらいだから、多分ひとりじゃ一生森から抜けらんないだろうな」
「……」
唇を噛みしめて、拳が鳴るほど強く握った。
悔しいけれど、それしかない。
頼れる者が、この男しかいない。
「…お願い、フェイまで、着いてきてくれない?」
「無理」
「何でよっ!」
あまりにも否定が早すぎて、紅は思わず声を上げる。
男はあくまで態度を崩さなかった。
「もう遅いし。俺、行かなくちゃいけないところあるし。君に付き合ってる時間がない」
濃い枝葉で望めないが、暗い夜空を指さして男は至極当然の口調で言う。
この男は同情も見せない。悪びれない。そしてその言葉に裏はないのだろう。
そう思うと、少し気が楽になった。
無関係の他国人と、こうして普通に話をしてくれるだけでまだこの男は善良なのかも知れなかった。
「……」
「じゃ、俺はこれで」
手を挙げて、踵を返す男は、後ろから何か引っかかりを覚えて首を巡らす。
「どうしたの?」
マントの端を掴んで俯く少女へ向ける、そんな声だけ何故か優しい。
「じゃあ、あなたに着いていく。街まで」
そう呟いて、ぱっと手を離す。
迷惑なら、やめる。嫌なら言ってくれという空気を、言外に感じて、男は知らず、薄く笑った。
「君の自由だ」
時々迷うと言っていたわりに、先を歩く男の足取りはよどみがなかった。
ただ、急ぐと言っていたわりにそれほどの速度ではなく、もしや自分を気遣っているのかと紅は思ったが、考えすぎだと振り払った。
と、意識を離した隙に、目の前から男の姿が消えている。
「え!?うそっ…」
見失ったかと、本気で狼狽していると、わずかに下の方から鼻歌が聞こえてくる。
「…崖ね」
そこは少し急な段差になっていて、紅もひょいと飛び降りる。
肩越しに振り向いた男が、高い音階で口笛を吹いた。
「娘さん、ただ者じゃなくない?」
「あなたのうさんくささに比べたら安いものよ」
何となくどうもこの男を相手にすると口が減らない。
着いていって、どうにかなるものでもないかも知れない。変なところに連れて行かれるかも知れないし、状況を悪くするだけかも知れない。
けれど結局、一人ではフェイに帰れないのだ。
たった十五年しか生きていない自分の目では、この男が信用出来るかどうかは判断しかねる。
だけど。
仕方がないのだ。
無いのだから。自分には。
頼れるものは、この男の背中だけだ。
「あのさああのさあ」
ふいに、今度は段差のある土壁を登りながら、男の背が声をかけてきた。
ずっと、無いものとされていると思っていたから驚いた。
「俺の用事が終わって、時間が出来たらフェイまで連れて行ってあげようか」
「え!?」
とつぜんの意外な申し出に目を見張って、ただでさえ高い位置にある男を見上げる。
登り終えた男は、しゃがみ込んで紅を真っ直ぐに見つめていた。
「君、ウォッツのこと知らないでしょう。たぶん一人でいるとどっちみち危険だと思う。だからしばらく、俺と一緒にいる?それまで我慢出来る?」
「……」
普通に考えれば、これはありがたい申し出だ。普通に考えれば、だが。
真っ直ぐこちらに向いているのに、男の闇色の瞳からは、何も読めない。
「それは、あなたに、何のメリットがあるの?」
少し固い声で訊くと、男はちいさく笑ったようだった。
「もちろんただじゃないよ。俺はわるいひとだから、君がいやならいい。ギブアンドテイク。俺の言うことを聞いてくれたら、君をちゃんと守って、フェイに帰してあげる」
もちろん、ただで助けてもらおうなどと虫のいいことは考えてはいないが。
「…それって」
「好きなときにやらせてくれる?」
紅はとりあえず手持ちの荷物の中から硬くて丈夫なモノを投げた。
自己記録を更新するほどの豪速だったが、男は顔色一つ変えずに受け止めて「いい腕だね」とか言っている。
「…とか、言われるのが当たり前の国なんだよ。ウォッツって。知らないでしょう」
「……」
肩で荒い息をしながら睨み倒した。
またもや顔が赤くなっているだろうと思うと悔しくてしょうがない。
「女の子が一人で歩いてるとね、襲われても文句言えないの」
「ろくでもないわね」
それほどまでに治安が悪いとは思っていなかった。隣国とはいえウォッツは何かと秘密主義らしく、情報はほとんど入ってこない。
「確かにそうかもね。だからね、力のない女の子は強い男を選んで守って貰うわけ」
「…男尊女卑の国なの?」
差別を無くそうという意識の強いフェイ国人からすれば、自然と眉を潜めてしまいそうだ。
「ううん、女の人はね、自分の魅力で男をメロメロにして戦うんだ」
「……?」
何だか要領を得ない。
紅はとりあえずウォッツの情報は置いて置いて、話を元に戻すことにした。
「それで、あなたの条件って、何?まさか本当に…私の身体じゃないでしょう?」
「うん。俺そこまで困ってない」
即答するなむかつく。
まあその一言は呑み込んだ。頬が若干引きつっていたけれど。
「ちょっとね、用事で手伝って欲しいだけ。難しいことじゃないよ。でも君がいいなあと思ったから」
はっきりしない物言いに眉を潜める。
「具体的には…」
「それを手伝ってくれたら君を守って面倒見るし、ウォッツのことも教えてあげる。きちんとフェイの街道まで送ってあげる。どう?悪い条件じゃないと思うけど」
無視すんなやだもうこの男。
「………」
ふうーと溜息を吐いて、額をとんとんと叩く。
明らかに頭痛がした。原因ははっきり分かっていた。
けれど、結局答えはひとつ。
出来るだけ睨み付けるまなざしで、高い位置にいる男を見上げた。
「あなたの名前は?」
男は緩く首を傾げてみせる。
「これからしばらく一緒にいるんなら、呼び名がないと不便よ。なんて呼べばいいの?」
「ラグだ。ラグ・ディアス。君は?」
そう名乗るとき、してやったり的な、明るい笑みをこの男が浮かべた。
紅はその理由が分からないまま、観念して答える。
「紅よ。姓はないわ。そういう家に生まれたから」
「クレ」
柔らかく口の中で転がされて、何だか無性に照れた。急いで付け加えるように言う。
「紅は、あかいって意味なの。髪の色が」
「紅」
言葉を遮られたのに、今度はきちんと呼びかけだったので思わず顔を見上げる。
男は両手を差しだして、こうのたまったのだった。
「おいで。君が嫌でなければ、お嫁さんにしてあげる」
「は?」
そのために紅が凍り付いたのは、言うまでもない。
硬直したままの紅を、有無も言わせず引いて、抱き上げて、あっというまに男と同じ場所に立たされる。
「いや?フェイでは、お嫁さんは女の子の夢じゃないのかな」
「や、あの、意味が良く分からないわ…」
彼の言動が意味不明なのは今に始まったことではなかったが。
男はきょとんとしていて、分からないのがわからないといった様子だ。
「じゃあ言い方を変えるべき?俺の女になれよ」
「何それ!!」
何故かがらりと変わった口調で口説かれて、紅の背筋にぞわりと悪寒が這い上った。
「何それって、そのまんま。今日から二人はラブラブって事でどうだろう」
「どうだろうじゃないわよ!何ホントあなたわけが分からないわ!頼むから、分かるように一から説明して欲しいの!!」
「え、嘘なんで何が分からなかった?」
「全部よ、全部!!」
夜も深まったウォッツの広大なレヴンの大密林に、騒がしいやりとりが響く。
力いっぱい喚く少女の元気な声と、調子の変わらない若い男の声。
それはもうしばらくの間続いて、安眠を妨害された動物たちは迷惑そうにざわめき、目配せをしあっていた。
―――――これが、二人のそんな出会い。
(2005.1.31)
ボケ突っ込み分担決定。